椅子選びは難しい


椅子選びは意外と難しい。
安いものはすぐにくたびれてしまうし、何より座っていて腰が痛くなる。
買った当初はそうでもなかったのに、身体に馴染めば馴染むほどに腰が痛くなるとは、これ如何に。

この部屋にやって来た頃は見目麗しく、愛らしい家具で、その佇まいは
「ご主人のお腰をお守りしますよ」と言わんばかりの愛に満ちていたというのに、なにゆえ斯様に変わり果ててしまったというのか!
いつからお前は主人に対して、斯くもつらい思いをさせる家具となってしまったというのか。

私と同じく、そんな思いをした人はいないだろうか。

そして置く場所についても、一人暮らしで1Kともなれば、スペースに限りがある。
いかに快適な椅子やソファを手に入れたとしても、大きなサイズのものでは部屋全体が窮屈になる。

そう考えると、椅子やソファというものはそのサイズと快適さが比例するものなのだろうか、とも思う。
大きくなればなるほど、快適な座り心地になる。そう言われると、確かにそんな気もする。

でも狭いんだよ!

そう叫びたい。声を大にして叫びたい。
ここが山奥の山小屋で、他に誰もいないなら素っ裸になって、そう叫ぶこともやぶさかではない。

こうして腰をいたわるための、私の椅子探しの旅は始まったのである。


そんなある日、文房具の類いを見て回ろうと立ち寄った東急ハンズに、彼は静かに佇んでいたのである。
その眼差しは、「ずっと待ってたよ、君が来るのを」と言わんばかりであった。


決して優雅でも逞しくもない脚と貧弱な腕。しかし彼は素朴な優しさを持って私に
「まあ、いつまでもそんなところに立っていないで、ここに座りなよ」
と、その身を差し出してきた。と言いたくなるようなディスプレイが施されていた。

その決して人の耳では聞き取れないであろう言葉に甘えて、私は腰を掛けてみた。

うむ。うむうむ! よいではないか!

ここが山奥の山小屋で、他に誰もいないなら素っ裸になって、そう叫ぶこともやぶさかではなかった。

でもお高いんでしょう? と値段を確かめてみると、そうでもない。
とは言え、今まで衝動買いで買ってよかったと思えるような物に出会ったことがない私は躊躇った。
一度帰って、よく考えてから出直そう。
じゃあな、またいつか会おうぜ。そう言ったような気分で、私は東急ハンズを後にした。

ご存じ、東急ハンズと言えば、ちょいと洒落乙なものを扱っている大型雑貨店だ。
そして滅多なことでは割引などせず、ほぼ常に定価で販売するお店である。

部屋に帰ってきた私はと言えば、もしかして通販でならもっと安く手に入れられるのではないか、と最早買う気満々でネット上を検索してみた。

見つけた! これだ!
by カエレバ

意外にも通販でもほとんど値引きはされていなかった。
しかし座面幅55cmであの座り心地なら、決して高くはないな、とも思う。

もちろん予算を上げて、設置スペースのことも無視すれば、もっといい品物を見つけられるだろう。
もっと可愛らしいデザインやスタイリッシュなものなどもあるだろう。

しかし悲しいかな、ここは1K。
そして先に述べたように、快適さと大きさは比例しやすいという考察を念頭に置くと、どうしても選択肢は少ないのである。
ちなみに財布の中身も少ないが、それはひとまず脇に置いておこうじゃないか。

大体これいいな、と思う椅子やソファのサイズは、小さくても幅が70cmぐらいなものが多く、アーム部分の幅もも含めると実質半畳分くらいの大きさになる。
もちろん店頭で座り心地も確かめているが、気に入るからにはどれも間違いなくグッドだ。
後はいつも「値段とスペース」という条件との戦いである。

私はその戦いにいつも敗北と撤退を余儀なくされていた。
悔しい。なぜ私の腰をいたわってくれる優しさを持ち、なおかつお財布にも優しい椅子に巡り合えないのか。
そして見るからに頼り甲斐のありそうなものたちは、どうしてこぞってデカい図体をしているのだ!
私の部屋を私に代わって占領するつもりであるというのか!

そんな悶々とした気持ちで、今日も「あー、やっぱこの『ひだまり』っていう椅子欲しいなー」と思う灰原であった。
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